Volkmer, I. (2003). The Global Network Society and the Global Public Sphere.

〇イントロ

Volkmer, I. (2003). The Global Network Society and the Global Public Sphere. development. 46:1; pp.9-16.

 

今回の論文は、国際的な公共的領域に関する議論を扱ったものです。

著者は、ハーバードやLSEで教鞭をとってきた人で、デジタルコミュニケーションやビッグデータが、トランスナショナルなコミュニケーションのためのモデルをどのように形成しているのかを研究しているようです。

https://www.findanexpert.unimelb.edu.au/display/person155840

 

この2003年の論文は国際的な公共的空間に関する議論の系譜をさっと確認したうえで、国際報道の発達によって、国家のコントロールを迂回する形で情報の流れが形成され、グローバルとローカルのレベル、普遍的価値と個別的文脈、ネットワークの水平と垂直へと、世界市民を形成するプロセスが再構成されてきているということを主張しています。

このテーマについては知識が乏しく、問題意識の段階から理解できていないところがありますが、内容をまとめていきたいと思います。

 

また、基本概念のメモとして、以下を抜粋しておきます。

   齋藤純一『公共性』(岩波書店、2000)、p.x

複数形の公共 publics=公共圏:「一定の人々の間に形成される言論の空間」

単数形の公共 public space or public sphere=公共的空間:「さまざまな「公共圏」がメディア(出版メディア・電波メディア・電子メディア等)を通じて相互に関係しあう、言説のネットワーキングの総体を指す」

⇒前者が特定の人々、後者が不特定の人々によって、それぞれ構成される言説空間

 

〇本編

ナショナルな公共的空間の国際化と拡大

・共通の場としての「世界」は哲学における概念として古くから存在した。

・国境を越えた情報の流れも21世紀に限定される現象ではない(ヨーロッパにおける商人、貴族や修道士のようなエリートの間のやりとり)

・19世紀の終わりごろまでには、報道の自由が人権として欧米で認識されたことや、技術発展によってマスメディアとしての性質を持ったことで、新聞などの印刷物が商業化されている

・これは外国の情報に関する需要と並行して拡大してきた

・この需要と、19世紀ヨーロッパで出現した”public”に応えるために、whole sale news agencyが登場した(ロイターとか)

・植民地管理のための世界規模の通信システムの登場によって、政治情報の国際化が起こった

・20世紀の衛星通信によって、海外情勢に関するニュースは"global" communicationに関する議論の出発点になった

地球村*1から、多様化された国際的な公共的空間へ

・20世紀の国際的なコミュニケーションは国民と社会的エリートの間のコミュニケーションの意味で言及された

・外国のある出来事について、各国に同時に情報が伝わることは、マクルーハンによれば、多様な社会が、文化的・社会的・政治的視点から同じ信号やメッセージを受け取るという意味で、根本的な衝撃をもっていた。→グローバル化の議論の出発点

・冷戦期は、その混乱が世界的関心を集めたことによって、世界が、共通の空間として認識する契機となった

・技術の発展はこうしたグローバル化を複雑で多様なものにした→点と点(ネットワーク)/点と複数の点(テレビ)

トランスナショナルな政治ニュース空間=新しいグローバルなニュース空間

・これはナショナルな空間に衝撃を与える

①ナショナルな公共的空間における国外と国内のニュースの文脈の並走状態を洗練する(例えば、ドイツの放送局とトルコの公共放送のそれぞれが同じ出来事についての情報を同じ人に伝える)

→世界規模のトランスローカルな公共的空間

②このトランスローカルな空間は、先進・新興・途上国に動揺に衝撃を与え、典型的なアジェンダセッティングの階層を越えて、独自の自己言及的な政治空間を形成する。

CNN効果

→拡張された越境的政治空間は国家の政治戦略に影響するし、また、グローバルな政治空間が存在するという想像は国家レベルの政治における新たな影響力となる

・CNNを例にとると、世界中報道関係者が、さもなければリーチアウトしなかったであろう人々にまで、world reportの枠組みで情報を伝えることにより、新たなプレイヤーとして、政治空間に参入することになった。

→新たにグローバルにネットワーク化された個人

・既存のニュースインフラはこのネットワークのハブになっている

・このネットワークは国家の情報統制を迂回する副次効果を持つ

・双方向的な情報の流通は、政治的な過激派に世界規模で発信する機会を与えた

トランスナショナルなミクロ空間が、国家を超えて拡張している政治空間を変容させている

国際的な公共的空間と弁証法的空間(Global public sphere and dialectical sphere)

・こうした中で、ジャーナリズムも変容している。

・国際的公共的空間とミクロ空間や、様々な政治メディア環境を仲介、調停する役割をもつようになっている

・しかし、既存の国際コミュニケーション理論の枠組みは国家がベース単位になっている。

・グローバルな空間とミクロな空間を、どううまく弁証法的に理解していくかが重要ということ?

〇メモ

・ちょっと門外漢過ぎて、どうコメントすればいいのかわかりません(し、そもそも内容がよく分からなかった、、、)が、実証研究のベースとしてこの議論を用いるならば、やはり国際的な公共空間が存在することを確認していく作業(もしくは確認した先行研究)から始まるでしょうか

・少なくとも中心となる主張は、言説空間における国家という単位の後退と、ミクロレベル・グローバルレベルでの言説の重要度の拡大ということだと読み取ったので、質的研究として持っていくなら、特定のトピックの語られ方を探っていく感じかな?

・世界の理解の仕方(どうなっているのか)の議論だとも思うので、これで何をみるのか、この理解の仕方でこれまで分からなかったどんな面白い現象を捉えられるのか、というのが、読み手を引き付けるポイントになるかもしれません

・そこから、なぜそんな面白い現象が起こっているのか、に繋がっていくはずです

・言い換えると、この論文単体ではかなり大きな議論に見えるので、修士論文として、これをどうリサーチクエスチョンに落としこんでいくのかが気になります。