J. TrondalおよびC. Ansellらの組織論に基づいたガバナンス研究のごく簡単なまとめ

C. Ansell et al (2017) Governance in Turbulent Timesに始まり、M. Riddervold et al. eds (2021) The Palgrave Handbook of EU Crises における危機をめぐる諸分析までの一連の研究をごく簡単にまとめる。(私的まとめであり、各論文の正確な引用は省く)

彼らのガバナンス分析では、現在の公的組織は”変化”を前提としている、という考えがある。この変化が明白に表れたものが様々な”危機”であり、先進各国のこの10年ほどを見てみれば、様々な危機が噴出し、ある種当たり前の現象となってきていると述べる。

もしそうであるならば、こうした変化や危機への対応がガバナンスに当たり前に組み込まれていなければ、効果的に機能することができないと考えることができる。

では、実際に危機に直面し続けてきた組織がどのように対応するかといえば、Ansellらは、それはイノベーションであり、システムが変化し続ける"動態的レジリエンス(dynamic resilience)"なのだと主張する。

このシステムの変化には、いわゆる既存の手段による対応という経路依存の行き詰まりによって引き起こされる組織の根本的変化と、劇的でない改革を常に行っていくことで変化する状況に合わせていく適応的変化の二つがある。

彼らは、危機、言い換えれば、社会が複雑で、変化が早く、様々な矛盾や行き詰まりが発生する状況においては、そのことを前提とした公的ガバナンスが効率的かつ有効であると考え、後者の変化の在り方、すなわち動態的レジリエンスを分析の中心に据える。

そして、適応において重要なのが、最少多様度の法則であり、それに基づいた複雑性の吸収である。適応的なガバナンスは、様々な状況に対応するためのレパートリーを蓄え、必要に応じて様々な手法を切り替えていく。よって、適応的なガバナンスは、経路依存的な安定性と劇的な変化の二項対立で捉えるのではなく、経路依存的な様々な手法によって安定性をある程度確保しつつ、新たな手法を手に入れるための変化も同時に試みるという複合的な性質を持つものとして捉える必要があると述べる。

以上を踏まえて、実際の分析においては、ガバナンスの改革をメタガバナンスの実践と捉え、そのプロセスを組織的側面を中心に分析することを勧める。改革プロセスには、既存の制度が影響する側面と、その時々の状況に応じて即興的に改革プロセスが組み立てられていくという側面がある。例えば既存の制度によって改革プロセスに直接的に関与できるアクターは制限されることが多く、またどのようなアクターが参加するかによってもプロセスは変化する。一方、構造とは関係なく、その時に並行的に行われている別の改革の影響を組織的な経路を通じてうけることがあったり、特に危機のような時間的に差し迫っているような場合には、既存の手段の比重が大きくなる傾向があるため、組織自体は事前に長期的な視点で将来を予測し変化の方向性を検討するという、異なる時間的幅を混在させることも重要になる。以上を踏まえれば、改革プロセスの違いが如何にして改革の方向性の違い、従って結果の違いを生むかについて理解するために、こうした組織的側面は役に立つ。

 

 


まずもって難しいのは、彼らの研究が何かを説明することと、何かについてどうあるべきかという主張が入り混じっているところにある。実際、ScienceとCraftの両方の要素があるんだ、というのような話も出てくる。彼らの主張には説得力があるように感じるし、だからこそ自分の研究で依拠しようとしているわけだが、「本当にそうなの?」という突っ込みに中々答えるのが難しい。科学的に、変化が前提とされているのかどうか、変化が当たり前の状況では本当に動態的レジリエンスが有効なのか、そのあたりの実証が足りていないのではないだろうか?ある現象について、それでしか説明できない、ではなく、その方が(理論的には)良いでは、社会科学系の博論としては不十分だろう

ガバナンスとレジリエンスを考える上で、ガバナンスの一般的な理論としてレジリエンスを論じている研究が多くなさそうなので重要な研究だと思うが、ガバナンスのレジリエンスについて述べているもっと他の研究と対比させることが重要だ

そして、ただの愚痴であるが、慣用句などが結構色々出てきたりするので、英語でよくわからない部分が多く、結構苦戦するのが地味つらい。内容も難しいと思うのでなおさらである