薬師寺泰蔵『公共政策』(東京大学出版会、1989) 第4章

  • 1955年コネチカット州 リビコフ知事の高速道路の速度規制を事例とした政策評価
    • 1956年には交通事故死亡者数が324人から284人に減った。
    • これは、リビコフ知事が行った速度規制によるものなのだろうか?
    • 疑似実験計画法(Quasi-Experimental Design):政策分析者が注意すべき点に関する処方箋
  • Internal Threats & External Threats(恐らく、内的妥当性と外的妥当性)
    • Internal Threats
      • 個別の政策を分析する際にしてしまう誤謬(第一の誤謬)
    • External Threats
      • そこから得られた知見を一般化する際にしてしまう誤謬(第二の誤謬)
  • 第一の誤謬と処方箋
    • 歴史のチェック
      • 政策介入の前後に交通事故死亡者数を減らすような要因はなかったか?
    • 成熟性(maturation)のチェック
      • 教育学からの用語。子どもは成長に応じて学習能力が飛躍的に上昇する。従って、新しく導入した教育方法の効果によって学習能力が向上したのではなく、時間的なマクロトレンドによるかもしれない。
      • この事例では、全米でマイルあたりの交通事故死亡者数が減少しているというトレンドがあった可能性を考慮したりしなければならない。
    • 不安定性のチェック
      • 政策効果は単に絶対量の変動に現れるのではなく、変動幅の変化といったようなデータの不安定性の構造変化に現れるかもしれない。
    • 回帰性のチェック
      • 何らかの処置というのは、変化の原因というより、変化の結果であることが多い。
      • 例えば、何らかの異常事態が発生し、それへの対処として処置がなされたとしても、その異常事態は自然と通常状態に戻っていく性質のもの(回帰性があるもの)だったために、異常からの復帰を処置の効果と勘違いしてしまうことがあり得る。
      • この事例では、急激な交通事故死亡者数の増加を原因として、速度規制という政策介入という現象が起こったにもかかわらず、政策担当者は通常状態への回帰を介入効果と判断してしまうような状況が考えられる。
      • データは二要素の相関関係を述べているのみで、なぜそのような相関関係が生じるのかについては何も言わない。これを理解していなければ因果関係を間違えるし、さらに言えば、因果関係のメカニズムはデータだけを見ていても分からない。
      • データに山型の変動を見た時には、それがサイクルの一部ではないかということを考えねばならない。これを見分ける方法の一つは、上昇カーブと下降カーブの相関性を調べることである。
    • テストの効果性のチェック
      • 来週テストがありますと言うだけで、子供たちが普段より多く勉強するようになるのと同様に、交通事故死亡者数が増加しているというデータを公表するだけで、速度規制と同程度の効果があるかもしれない。この場合、政策介入の効果を峻別することは難しい。
    • 測定尺度のチェック
      • 最もふさわしい測定尺度を用いてデータを見ないと政策効果を見誤る
      • 速度規制をすると、ドライバー一人当たりの走行距離数は減少するため、もし単位距離当たりの死亡者数を尺度にすると、全体の交通事故死亡者数は減少していても、単位距離当たりの死亡者数は増加してしまう可能性がある。
    • 対象の妥当性のチェック
      • どのデータを分析の対象とするかで政策効果の評価は変わる。
      • 例えば、事故者数と事故数を見るのかで効果が違って見える可能性がある。
    • 寿命性のチェック
      • 介入の効果が現れるのには時間がかかることが多いが、介入の対象がその間に亡くなってしまう可能性がある。つまり分析対象が変化していることを考慮しなければならない。
  • 第二の誤謬と処方箋
    • 介入慣れ効果のチェック
      • 一度介入を受けた対象は、そうした介入に適応し、次の介入に親和的な反応を見せることが多い。
      • 従って、ある対象に介入の効果があるからと言って、別の対象に同様の効果があるとは限らない
    • 対象の特殊性のチェック
      • 日本で戦後復興政策がうまくいったのは、日本の政治文化の特殊性によるもので、アメリカで通用するとは限らない。この間違いを避けるためには、対象がどれほど似通っているのか、あるいは異なっているのかを調べなければならない。
      • この事例では、別の州で同様の速度規制条例を採用しているケースを検討し、同様の反応を示しているかどうかをチェックしなければならない。
    • ホーソン効果のチェック
      • ある処置が特殊だった場合、それに対して対象がユニークな反応を示す可能性があり、その場合は一般化することができない。
    • 多重介入のチェック
      • ある公共政策はパッケージで行われることが多く、そのパッケージの中のある処置の効果を他の処置の効果から峻別するのは極めて難しい。
      • この場合、一般化するためには、何らかの方法で他の変数を統制し、単一の処置の効果を峻別しなければならない。