角倉一郎『ポスト京都議定書を巡る多国間交渉:規範的アイデアの衝突と調整の政治力学』(法律文化社、2015)
〇イントロ
ブログを週一ペースで書きたいと思ってましたが一か月で挫折しました笑
うまくいかなかったので、何かやり方を考えないといけないですね。
とりあえず今回は、院生勉強会の第三回に向けて、メモを残しておきます。
今回の論文は、外交交渉を分析するための理論枠組みとして、気候変動問題を巡る多国間交渉を分析したものを読みます。これを使いたいと考えている院生は、イランの核開発を巡る外交交渉に応用したいようです。
ブログ、がっつり書くと続かないと気付いたので、できるだけ簡潔にまとめていきたいと思います。
〇本編
角倉一郎『ポスト京都議定書を巡る多国間交渉:規範的アイデアの衝突と調整の政治力学』(法律文化社、2015)
問い
・ポスト京都議定書に関する交渉で、実効性の高い日本の案ではなく、EUやアメリカの提案を軸に合意形成がなされたのはなぜか?
・より広い問いとして、「なぜいずれかの主張や提案が優位になり、他はそうならないのか?」
先行研究
・国際レジーム形成における規範の作用について
山本、渡邊より、①すでにあるレジームが取り込まれるパターンと制度化されていない段階の規範は区別するべき、②対立競合する規範的アイデアは相互作用しながら形成・維持・発展する
・国際規範の形成過程における規範の競合の政治力学について
Florini:規範が生き残る基準は、生き残れる程度に目立つか、先行規範との整合性、生き残りに有利な環境か、が重要
FInnemore and Sikkink:規範のライフサイクルのうち、カスケードが起こるためには、規範起業家の説得が重要であり、その上で①規範を提唱している国家が成功し、モデルとなっているか、②規範が明確で特定しやすく(形式面での本質的な特徴)、先行規範との近接性が高いか(実質面での本質的な特徴)が重要
⇒規範間の調整をちゃんと取り扱っていない=説得や討議が重要
・政策アイデアの衝突と調整について
Kingdon:政策を巡る専門家コミュニティでの議論を生き残りアジェンダ候補になるためには①実現可能性、②政策コミュニティ内の価値観との整合性、③アイデアが実施までに直面する制約を乗り越えられそうか、が重要
Sabatier:規範を唱道する集団間は、プロセスを通じて自らのアイデアの欠点を学習し、修正する
⇒アイデアの中身が重要と言っている有用な研究=だから踏まえないといけない?
・説得と討議のプロセスについて
Habermas:コミュニケイション的合理性が成り立っている議論であれば、①真理性、②正統性、③誠実性の三つの要素をクリアすると、妥当性があると考えてよい
Risse:「討議の論理(logic of arguing)」が成り立つ状況であれば、①主張が事実に即しているか、②主張が道義的に正しいか、③発言者の誠実さ、で妥当性を評価できる。討議の論理的状況はあくまで理念型だが、小国が大国の主張をひっくり返すような状況は実際ある。
阪口:国際レジームの原理や規範を共有している「緩やかに社会化された状況」では、①事実・科学的知識との整合性、②レジームの規範やルールとの整合性、③発言の一貫性、で評価できる
・経済的利益やパワー、その他の要素と規範との間の相互作用
Young and Osherenko:これら三つ+リーダーシップと文脈
山本:相互作用の例について
分析枠組み
・「規範的アイデア」というレンズを使うことで、制度化する前のアイデアが制度化する過程として交渉を捉えられる
・見るのは妥当性を巡る三要素だが、先行研究を踏まえて、①真理性は、世界全体の温室効果ガス排出削減の実効性、②正統性は、気候変動レジームの一部としてこれまで制度化されてきた先行規範との整合性、③誠実性は、誠実性に関する評判、と設定して分析する
・規範だけで採用されるわけではないので、パワー要因と経済的利益要因も見る
〇コメント
交渉においてアイデアが重要になるための「緩やかに社会化された状況」とは、パワーゲームの段階を抜けて、議論の説得力が重要になった状況のこと、と私は理解しているが、イランのケースはまだパワーゲームの要素が強そうだな~という小並感
まじめに考えると、この「状況」が成り立つためにはレジームがある程度成熟している必要がありそうなので、どのアイデアが勝ち残るかについては経路依存の要素がかなり強く、討議や説得の影響度は下がりそうにも見える。もちろん、その上で何が選ばれるかが重要であり、そこが見たいということなのかもしれないが。
また、イランの核開発を巡る交渉においてP5+1の間で何らかのレジームが存在していると言えるのだろうか。ここらへんはイランの核開発に関しては全くの素人なので何とも言えないのですが。
規範的アイデアは、こういった新しい概念を出さなくとも、各国の主張、でええやんけという批判を想定して、いや、アイデアは各国に固有の背景から出てきてるものだから、採用されるときに見られているのはコアの部分だし、このコアを抽出するためにはレンズを用意しないといけないんですよ、という正当化は説得力があっていいなと思いました。
枠組の部分は、あくまで理論を整理して、この事例に適用してみました、という感じなので、理論へのインプリケーションがどうなっているのかは気になるところ(今回の勉強会で読む範囲ではないが、これを使う上でも重要だと思う)